「負けてらんないなと思いながらも、自分のペースでやるってことを続ける」―KISSA RAYディレクター長山レイに聞く、カフェ文化のあり方

interview

「よく相談しに来る人たちが多いです。よく恋愛相談とかされます。お店の効率的にはどうなんだって問題はありますけどね。」

一昨年の夏に下北沢にオープンしたカフェKISSA RAYを営むレイは、笑いながらそう話す。地元からも愛されるKISSA RAYの魅力は、美味しいコーヒーに加え、レイの人当たりの柔らかさにある。宮崎で生まれ育ったレイが、下北沢でカフェを経営する上で大切にしていることとは。その背景についても伺った。

人が集まる場所を作りたい

宮崎県出身のレイは、映画館を経営していたひいおじいちゃんの影響で、映画が好きになり、映画を通して外の世界を見ていた。ひいおじいちゃんの映画館は、戦後まだテレビもない時代、地元の人がみんな集まって一つのエンタメを楽しんでいた場所として機能していたという。次第に、自身も人が集まる場所作りがしたいと思うようになり、実家が不動産業を営んでいたため、自身も不動産業に就職するとなんとなく思っていたなか、大学3年生の就活中に転機が訪れる。

「大3の時に就活のためにテストセンターに行って。ちょうどその日に東日本大震災があったんです。テストセンターに行く途中にある品川プリンスホテルに避難して、受けているはずだったテストのこと考えながら将来について見つめ直して、就活せずに思い切って海外へ行くことを決めました。」

オーストラリアにワーキングホリデーに行くことを決め、働きながらバックパッカーとして各地を転々としていたという。そんな中、カフェ文化に出会う。

「ふと入ったところも美味しいし、それこそ店の中でお客さんたちがラフに話してるのを見て、ローカルの人たちが集う場所みたいな雰囲気がすごい素敵だなと思って。日本で行っていたカフェみたいに商業っぽくっていうより、もっとコミュニケーションをとる場所になっていて。

当たり前ですけど、海外の方は初対面でもHow are you?っって言うじゃないですか。

日本だとその文化ってあんまりなくて、いらっしゃいませ、って感じで。そういう距離感の変え方っていうところは、やっぱりすごく考えさせられるんですよね。

今では海外のお客さんも結構来られるんですけど、生き生きした会話ができてすごく楽しいです。この間も、海外から来たミュージシャンのお客さんと話していたら『CD聞ける? これよかったら俺のデモCD』っていきなりCD渡して、帰ってくみたいなことがあったりして。」

コミュニティースペースとしてのカフェは、「喫茶」なんじゃないか

オーストラリアで感じた、「人が集う場所」としてのKISSA RAYは、着実に実現してきていると感じるという。お店に通うお客さんに相談されることも少なくない。

「よく相談しに来る人たちが多いです。よく恋愛相談とかされます。お店の効率的にはどうなんだって問題ありますけどね。

けど、名前を「喫茶」にした理由は、大体今のカフェは作業する場所として利用することが多いと思うんですけど、より人に近いところになりたいなって思いがあって。昔の日本の喫茶店って、もちろんみんな携帯とかパソコンは持ってなくて、新聞とか本とか読んだり、あとカップルでナポリタン食べてたり、コーヒー飲んで駄弁るみたいな場所だったんで、そのイメージから自分が作りたいコミュニティースペースとしてのカフェは、「喫茶」なんじゃないかなと思って。」

流行に左右されない強みを持っている町、下北沢

「居酒屋とかでバンドマンたちがいたりとか、結構そういう夢追い人が多いっていうのと、あとはそういう古着とかカレーとか、流行に左右されない強みを持ってる町なんです。それがすごいいいなと思ってて。」

下北は前から結構好きでよく来てたという。高校生の時はロックが大好きで、自身も音楽をやっていたり、古着も好きだったため街の文化自体がすごくフィットしていた。

お店のロゴはデザイナーの友達に書いてもらったもので、当初はお店のロゴにするのではなく、普通にタトゥーを掘るためにデザインしてもらったものだったという。

「決めたことを100パーやり通せる、イチローみたいなマインド持ってないので、何かやった時に忘れないためにタトゥーを入れてます。VERVE COFFEEの社員になって3ヶ月で副店長になって、そのあと半年で店長になった25の時に、この仕事で食っていこうって決めて入れたのが最初のタトゥーです。

将来的には、地元宮崎を盛り上げたいなって気持ちがあって、今も食材とかはなるべく宮崎のものを使ったりしてます。近い将来だと、都内でお店を展開したり、もしくはここ(KISSA RAY)をグレードアップするか迷ってて。アルコールもクラフトビールと、夜はコーヒーカクテル、コーヒー焼酎を出しているんで、仕事終わりに来て気軽に話せるみたいなのもいいですね。」

負けてらんないなと思いながらも、自分のペースでやるってことを続ける

「開店してすぐの一、二ヶ月は休みもなく一人でやっていて、慣れないオペレーションのなか一人で回してた時は体は動くけど徐々にメンタルに来たりしたので、今は一個ずつ一個ずつ、自分のペースで、と思ってます。

エネルギーがめちゃくちゃあって、やり方が上手な方はたくさんいますけど、すげえな、負けてらんないなと思いながらも、自分の体力って自分が一番わかってるんで、人のようにはできないと思ってます。自分のペースでやるってことを続けることが大事だと思ってます。

あと、3月からアパレル販売を始めています。結局自分が好きなものが、一番魅力伝えられるんで。最近できてないですけど、他のお店とコラボして展示をしたりとか、可愛いなと思ったものだけを店内で扱っていきたいです。」

宮崎の都城市のブランド卵を使った看板メニューのプリンは、販売総数一万個を超えた。KISSA RAYに行くと、美味しいコーヒーとプリン、オーナーとの会話に釣られて、思わず自分のことを話してしまう、そんな感覚になる。

KISSA RAY @kissa_ray

Nagayama Ray @raynagayama